2019年1~6月
 
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★これより以前のニュースは<library>に収録しています。   2018年7~12月

2019-6-24

リコーと日本将棋連盟が「リコー将棋AI棋譜記録システム」を共同開発
~記録係無人化へ向けた実証実験を開始~

 リコーと公益社団法人日本将棋連盟(会長:佐藤 康光)は、将棋対局時の記録係の不足に対応するために、AI(人工知能)技術を活用し、棋譜を自動的に生成する「リコー将棋AI棋譜記録システム」(通称「リコー棋録」)を開発した。2019年7月より、システムの実証実験を共同で開始する。

 現在、日本将棋連盟では、年間3,000局以上の対局が行われており、全ての対局で棋譜の記録と計時が記録係によって手動で行なわれている。記録係は、プロ棋士を目指している奨励会員が主に行っているが、近年、高校・大学に進学する奨励会員が増えていることや、対局数が増加していることなどにより、記録係を担う人材が慢性的に不足する事態が発生している。このままでは将棋連盟と各棋戦の主催者にとって、重要資産である「棋譜」が残せなくなることが危惧されてきた。

 本システムは、リコーがこれまで培ってきた画像処理技術とAI技術により、これまで記録係が行ってきた棋譜の記録を自動化するもの。対局の盤面を天井からのカメラで動画撮影し、AIソフトに取り込み解析することで、リアルタイムで棋譜が生成され、将棋連盟の「棋譜データベース」に取り込まれる。これにより、記録係の人材不足が大幅に解消される見込み。

 2019年7月から開始される、第9期リコー杯女流王座戦本戦トーナメントから実証実験を行い、2020年4月以降の本格運用を目指す。

 リコーは、2011年より、リコー杯女流王座戦を主催してきた。また、リコー将棋部は企業日本一を決定する内閣総理大臣杯職域団体対抗将棋大会のS級で現在、7連覇(継続中)するなど、これまでも将棋と深く関わっており、将棋対局に関わるノウハウを蓄積してきた。

 また、AIへの取り組みとして、2017年にはAI開発に関する専任組織「AI応用研究センター」を設立して、AIの製品への搭載や、社内の業務改革への適用などに取り組んでいる。独自性のある高度な技術開発を進め、世界トップレベルのAI技術の開発を目指すと同時に、AIをより汎用化することで、広くお客様の課題解決に活用できるようにしたいと考えている。

 今回の「リコー将棋AI棋譜記録システム」はAIによるお客様の身近な課題解決のひとつとして発表するもの。将棋連盟における「働き方改革」を支援していくことで将棋文化の発展に貢献していきたいとしている。




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2019-4-25

アモルファスシリコンの約30倍の電子移動度を実現
シャープが第5世代IGZOを開発
~モバイルから大型パネルサイズまで全面展開~

 シャープは、2012年3月、世界で初めてディスプレイを駆動するTFT(薄膜トランジスタ)として酸化物半導体IGZOを用いた液晶パネル※1の量産化に成功。その後も改良を重ね、このほど、第5世代IGZ0※2 (以下、IGZO5)を開した。

 80V型8Kチューナー内蔵液晶テレビ(昨年11月発売)向けに加え、中小型液晶モジュールの量産技術の開発を完了し、モバイルから大型パネルサイズまでをカバーするIGZO5の幅広いラインアップ展開が可能となった。

 開発したIGZO5は、製膜などのプロセス条件の工夫により、液晶パネルの駆動性能を左右する電子移動度を約1.5倍(前世代IGZO比※4)に向上。大型ディスプレイの駆動用TFTとして一般的なアモルファスシリコン※3の約30倍の電子移動度を実現した。8Kなど高精細の中~大型ディスプレイや超高精細モバイルディスプレイを高速駆動(120Hz以上)することで、低消費電力でもなめらかな表示を可能とした。また、電子移動度の高さからTFTサイズの小型化が可能となり、ディスプレイの輝度向上に寄与するとともに、周辺回路のサイズダウンによる超狭額縁化や、タッチパネルなどのセンサ機能の搭載などが容易になる。さらに、低消費電力や大画面化が可能となる点で有機ELディスプレイの駆動用TFTとしても非常に適しており、今後、有機ELディスプレイの展開に寄与することが見込まれる。
 
 同社は、2012年にIGZOを用いた液晶パネルをスマートフォンに搭載して以降、IGZOの特長である電子移動度の高さやトランジスタ駆動時のリーク電流※5の少なさなどを最大限に活かし、タブレット、PC、モニター、大型8Kテレビ、車載ディスプレイなどの様々なアプリケーションに展開してきた。




 IGZO技術は、8Kや5Gの普及に伴い送受信される高速大容量データを高品位で表示することを可能とし、同社が描く事業ビジョン「8KとAIoTで世界を変える」の実現をサポーする。今後、IGZO5の技術を活用し、8Kディスプレイのラインアップを拡充するとともに、超低消費電力モバイル、超高速駆動/高画質のプロ用モニター、中型有機ELディスプレイなどへの応用を進めていく考え。


※1 半導体エネルギー研究所との共同開発により量産化したもの。
※2 In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、O(酸素) により構成される酸化物半導体。液晶などのディスプレイを駆動するTFT(薄膜トランジスタ)を構成する重要な材料として用いられる。
※3 結晶のように規則正しい原子配列をしていない状態にあるシリコン材料。a-Siと略されることが多い。
※4 2016年第4四半期より量産している第4世代IGZO(IGZO4)比。
※5 トランジスタに電流を流さない状態(オフ状態)でも漏れ出してしまう電流のこと。表示品位などに悪影響をおよぼす要因となる。




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2019-4-17

120dBのハイダイナミックレンジを実現
厳しい条件下で撮像できる監視カメラ向けCMOSセンサーを開発
キヤノン


 キヤノンは、ハイダイナミックレンジ(HDR)での撮影を実現し、1/2.32型で有効画素数約280万画素のCMOSセンサー"3U3MRXSAAC"を開発した。2019年5月下旬よりサンプル出荷を開始する。

 近年、監視カメラの需要拡大に伴い、ビルの出入り口など明暗差の大きい状況においても高画質な画像を撮像できるイメージセンサーのニーズが高まっている。キヤノンが新たに開発したCMOSセンサー"3U3MRXSAAC"は、低ノイズを達成しながら、120dBの広いダイナミックレンジを実現するHDR駆動機能を搭載している。通常駆動時でも、75dB を実現している。

 同センサーは1/2.32型(対角7.75mm)、有効画素数約280万画素(1936×1456)、画素サイズは一辺3.2μm(マイクロメートル)で、フレームレートは60fps(HDR駆動時は30fps)を達成している。また、さまざまな用途のコンシューマー向けカメラにも使用されているMIPI CSI-2インターフェースに対応予定。

 さらに、-40℃から105℃までの広い温度範囲で動作するため、過酷な温度環境で使用することが可能。また、高温環境では暗電流ノイズ※1の増加により黒レベル※2が上昇し、映像の中の暗い部分が白くなることが懸念されるが、リアルタイムに黒レベルを補正する機能を搭載することで、高画質を実現する。
 なお、同センサーは2019年5月下旬よりサンプル出荷を開始する予定。

 キヤノンは、これまでも1.2億画素超高解像度CMOSセンサーや、超高感度35mmフルサイズCMOSセンサー、グローバルシャッター機能を搭載したCMOSセンサーなど、幅広い用途に向けたセンサーを開発、販売してきた。今後もさまざまな分野での活用が見込まれるセンサーの開発を進めていく方針。


※1光が当たらなくても熱によって生じるノイズ。
※2映像の中の最も暗い部分の輝度レベル。



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2019-3-28

NEC
高速カメラにより製造ラインの検品作業を効率化する物体認識技術を開発
 
 NECは、東京大学大学院情報理工学系研究科 石川正俊教授室・妹尾拓講師らの研究グループと共同で、「高速カメラ物体認識技術」を開発した。
 同技術は、高速カメラで撮影された毎秒1,000フレームの大量の画像から認識に適した画像を瞬時に選別し、高速かつ高精度に検査の合否を判別する。同技術を製造ラインに適用することで、製品検査のための製造ラインの操作が不要となるため、スムーズな導入と生産効率の向上を実現する。

 今回、カメラの前を0.03秒で通過・移動する物体について、刻印された5mm程度の微細な文字の違いをリアルタイムで、95%以上の精度で判別できることを確認した。
 高速で動く製造ラインにおいて画像解析を使用した検品作業を行うには、画像撮影のために製造ラインの一時停止やスピード調整などの操作を行う必要があった。この問題の解消には、高速カメラの活用が有効。しかし、処理すべき画像数が従来に比べ10倍以上に増大するため、画像処理に大幅な時間がかかり、リアルタイムな検査が実現できていなかった。

 同技術は、高速カメラで撮影した物体の大量画像について、物体のキズや刻印などを認識・判別するのに有効な画像を瞬時に選別する。さらに、キズや刻印を正確に判別するために、小規模なニューラルネットワークを用いて認識処理を繰り返し、認識結果について多数決方式をとることで、高速かつ高い精度の判別を実現した。これにより、これまで抜き取り検査しか行えなかった対象の全品検査が可能となり、製造ラインにおける異物混入防止や品質の均一化に貢献し品質管理を強化する。同技術は、製造ライン上を高速に移動するビンや缶のラベルなどの外観検査、錠剤や食品の異物検知などに適用が期待される。

 NECは、2020年度までの3カ年の中期経営計画「2020中期経営計画」のもと、AI・IoTなどの先進技術を活用し、今後も製造業のものづくり現場とデジタルとを融合して多様化するニーズに対応し、強いモノづくり経営や新しいサービスビジネスの創出に取り組む。これにより人やモノ、プロセスの情報・状態をバリューチェーン全体で共有し、新たな価値を生み出す「NEC Value Chain Innovation」(注)をお客さまと共に実現していく考え。

 背景

 近年、製造業において、顧客ニーズの多様化に対応した多品種変量生産が進む中、品質トラブルの防止と短納期の両立が求められている。しかし、労働人口の減少により、生産効率の維持・向上のためには人的作業ではなく、画像認識を中心とした検品作業の高度化が期待されている。今回、NECの画像認識技術と東京大学の持つ高速移動物体の追跡技術を融合して「高速カメラ物体認識技術」を共同開発した。




高速カメラ物体認識技術の概要


 高速カメラ物体認識技術の特長
  1. 大量の画像から、物体認識に適した画像を瞬時に選別
    同技術では、高速カメラの追跡処理で計算される物体の移動量などの情報と、画像の鮮明さなど認識に有効な画像との間には高い相関があることに着目。これらの相関関係に基づいて物体の移動量や、画像の鮮明さを表す輝度値から適した画像の判断基準である適合度を設定する。この適合度を活用して、それぞれの画像が認識に有効か否かをAIが瞬時に判定・選別する。
    これにより、高速カメラで撮影した毎秒1,000フレームもの対象物体の大量画像から、キズや刻印の有無が鮮明に撮影されているなど認識に適した画像のみを選別し、処理を行う画像数やその解析時間を数十分の一に削減する。
  2. 同一物体を撮影している複数画像を用いたリアルタイム認識
    高速カメラを用いた場合には、同一の対象物体に対して、少しずつ見え方の異なる複数枚の画像を取得し、対象物体の情報量を増やして解析することが可能となる。
    同技術では、得られる画像それぞれに対して、小規模なニューラルネットワークを用いて軽量化した認識を繰り返し、その認識結果を突き合わせて、最も多い結果を正解とする多数決方式を採用した。これにより、従来のように1枚の画像のみで認識する場合に比べて、約4割短縮した0.01秒程度で高速処理を行うことで、高速で動く物体のリアルタイム認識を実現する。

 NECと東京大学は、同技術を「動的画像処理実利用化ワークショップ」(会期:3/7(木)~8(金)、会場:北九州国際会議場)において、発表した。

 なお、発表の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」のうち「高速ビジョンセンサネットワークによる実時間IoTシステムと応用技術開発」において実施された成果をもとにしている。


(注)NEC Value Chain Innovation:
最先端のデジタル技術を活用し、お客さまとの共創活動を通じて、人やモノ、プロセスを企業・産業の枠を超えてつなぎ、新たな価値を生み出すNECの事業領域。地球との共生、企業の持続的な成長と人が豊かに生きる社会の実現に貢献。
参考URL:https://jpn.nec.com/nvci/index.html




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2019-3-14

リアルタイムで会議や講演などにおける発話を高精度にテキスト化し、
読みやすい字幕を表示する「会議・講演向け音声自動字幕システム」を開発
~東芝~


 東芝は、リアルタイムで会議や講演などにおける発話を高精度にテキスト化し、読みやすい字幕を表示する技術を開発した。
 同技術は、発話者の音声を高精度に認識し、「ええと」「あの」など発話の合間に挟み込むフィラーや、「きょ、今日は」などの言いよどみを瞬時に検出し、表示を工夫することで、視聴者が読みやすいリアルタイム字幕を自動的に表示する。同技術を活用することにより、聴覚障がい者に、音声を文字にして情報を提供する情報保障の拡充を支援することができる。

 同社は同技術の実用性を確認するため、社内外で複数の実証実験を行っている。2015年から社内の聴覚障がい者を対象にした実証実験では、「発言がリアルタイムで把握できるため情報量が格段に増えた」「十分に効果がある。早く実用化してほしい」など高い評価を得ている。

 2017年から一般社団法人情報処理学会と共同で行った学会講演(注1)の字幕提供の実証実験においては、音声認識率が発言内容を把握できるレベルの85%(注2)に達し、アンケートでも良好な結果が出ている。

 同社はこのほど、同技術の効果をさらに測定するため、3月14日~16日に福岡大学で開催される「情報処理学会 第81回全国大会」のリアルタイム字幕付きの生中継をドワンゴのニコニコからオンライン配信する予定。

 厚生労働省の調査によると、全国の聴覚障がい者の総数は約34万人(注3)にのぼる。多くの聴覚障がい者が社会で活躍しているが、「聴覚障がい」は「情報障がい」とも呼ばれ、会議や講演において必要十分な情報を得ることができず、情報保障の拡充が求められている。

 また、2023年頃から加速すると言われている日本国内の労働力不足に対して、AI技術による業務代行と自動化が推進されている。その中でも音声認識AIは多くの音声書き起こし作業の代替手段として期待が高まっている。
 現在、会議や講演の字幕表示や、記録としての書き起こしには多くの労力がかかっており、これらを音声認識AIで解決することにより、聴覚障がい者が会議や講演に参加することを可能にするとともに、作業量低減による生産性向上を実現する。

 しかし、現状では会議や講演のような話し言葉の音声には、ニュース音声などとは異なり、「ええと」「あの」などのフィラーや「きょ、今日は」などの言いよどみが含まれ、音声認識精度が劣化するとともに、そのままテキスト化しても非常に読みづらい文章になってしまう。そこで、今回、フィラーや言いよどみを含む音声を高精度・リアルタイムで認識・検出して、見やすい字幕や書き起こしテキストを提供できる技術を開発した。

 一般的な音声認識では、「あ、い、う・・・」のような音韻を識別する音響モデルと、「今日は」の次に来る単語の確率が(雨0.25、晴れ0.25、曇り0.25、良い0.25)などといった単語の連鎖をモデル化した言語モデルの二つのモデルを使う。
 今回開発した音声認識AIでは、音響モデルとしてLSTM(注4)とCTC学習(注5)を用いることで、人間のフィラーや言いよどみ発声時の音響的特徴を学習することが可能となる。そして音声認識時には、学習された音響的特徴に基づいて、フィラーや言いよどみを検出することが可能。検出したフィラーや言いよどみはリアルタイム字幕表示の際に薄く表示することで視聴者の読みやすさを向上させ、ドキュメントとして残す際には消去することで簡潔な形で仕上げることができる。

 また、言語モデルとして、言いよどみが検出された場合、その単語をスキップして連鎖スコアを計算する。例えば、「私の き 今日の発表は」という発言の時に、「き」という言いよどみ単語が検出されたときは「私の」の次に「今日」が来るスコアを算出する。これにより、通常の文章にはないイレギュラーな単語の連鎖をモデル化する必要がなくなる。

 同社は社内実証実験の中で、デザイン部門と協力して直観的に見やすいリアルタイム字幕表示方法を考案した。前述のフィラー・言いよどみ単語を薄く表示する工夫も本検討による成果の一つ。
 同技術を搭載した音声自動字幕システムを5つのメインセッションがある実際の講演で実証実験を行ったところ、編集や事前学習なしで、発言内容が把握できるレベルである85%の平均音声認識率という結果になった。また、アンケートでは、同字幕システムが「できる限り必要」と回答した約40%の方を含め、全体の約90%の方が「あっても良い」と回答するなど良好な結果が出た。

 同社は今後、同音声認識技術を東芝コミュニケーションAI「RECAIUS™(リカイアス)」の基本技術に搭載することを目指して検討を進めていく。


(注1)情報処理学会主催のソフトウェアジャパン2019のメイン講演
(注2)ここでは文字正解精度。正解文との文字の一致率による尺度。発言内容が把握できるレベルは内容にもよるが75~90%と言われている
(注3)厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果」
(注4)LSTM (Long Short-term Memory)、隠れ層に再帰構造のあるRNN(Recurrent Neural Network)の発展形の一つ。従来のRNNでは困難であった長期の依存関係を学習可能
(注5)CTC = Connectionist Temporal Classification空文字の導入と損失関数に工夫により、入出力で系列長が異なる問題に対してRNNを導入するための手法




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2019-2-21

超省エネ・小型の原子時計の開発に成功
~自動車やスマートフォン、小型衛星などにも搭載可能な高精度時計~
東京工業大学・ リコー・産業技術総合研究所

 東京工業大学、 リコー、及び産業技術総合研究所の研究グループは、消費電力が極めて低い小型の原子時計を開発した。この原子時計は、構成部品のひとつである周波数シンセサイザの消費電力を大幅に削減し、さらに新たな量子部パッケージを用いることで温度制御の効率を向上させ、60mWという低消費電力と15cm³という極小サイズを実現している。

 この研究成果は、大型で消費電力が大きかった原子時計のサイズおよび消費電力を大幅に削減することで、これまで搭載が難しかった自動車やスマートフォン、小型衛星など、様々な機器に原子時計を搭載可能となり、自動運転、高精度な測位、新たな衛星ネットワークの実現を大きく加速させる可能性がある。

 研究成果の詳細は、2月17日から米国サンフランシスコで開催される国際会議ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference <国際固体素子回路会議>2019)で発表される。

 開発の背景

 1927年に正確な時を刻む水晶振動子を用いる時計が発明された。それ以来、この仕組みは腕時計などにも搭載されて普及し、人々がお互いに正確な時刻を共有することが当たり前という社会システムを支える技術的根幹の一つとなっている。現在、大型の原子時計を時刻の基準とし、水晶発振器を同期させることで時刻を得ているが、原子時計を小型化して水晶発振器の代わりとして利用することができるようになれば、大きな技術的・社会的変革が得られるとして、汎用な小型原子時計の実現に対する期待が年々高まっている。

 米国のGPSに代表される衛星測位システムでは、衛星間で時刻同期が必要で、原子時計を用いる事で安定的かつ高精度な測位が可能となる。汎用な小型原子時計が実用化されれば、自動車やスマートフォン、超小型衛星、携帯電話の基地局などの様々な機器で利用できる。また、ビル屋内、海底、トンネル、橋梁などGPSの届かない場所での大型構造物のモニタリング(高精度計測)に用いる複数センサ間の時刻同期や、複数の人工衛星を使った低軌道衛星コンステレーションによる地球規模インターネットの実現、自動車や航空機等の移動体における安定的かつ高精度な測位、またそれによる自動運転技術の実現が期待される。

 課題

 従来の原子にマイクロ波を照射する共振器を持つタイプの原子時計では、共振器の大きさでサイズが決まり小型化できない問題点があった。そこで、コヒーレントポピュレーショントラッピングを用いて、マイクロ波で変調したレーザー光を原子に照射するだけで時間の基準となる正確なマイクロ波周波数の検出が可能となり、これまで数百cm³のサイズだった原子時計を一桁以上小型化することができた。しかしながら、周波数シンセサイザや、レーザーを駆動するためのドライバ回路といった原子時計の構成要素は、それぞれ非常に高い精度を求められるため、消費電力を下げることが難しく、結果として、原子時計全体の消費電力が数百mWと高くなってしまう課題があった。

 研究成果

 今回、高精度でありながら2mWという超低消費電力な周波数シンセサイザの実現および新たな量子部パッケージによる温度コントロールの効率化で、60mWの超低消費電力な小型原子時計(ULPAC:Ultra-Low-Power Atomic Clock)の開発に成功した。開発した小型原子時計は、消費電力を大幅に削減しながら、大型の原子時計とほぼ同等の1日で300万分の1秒以下の精度を達成した。この原子時計は、電圧制御水晶発振器、周波数シンセサイザ、レーザーのドライバ回路、制御回路、セシウム133原子(用語7)へのレーザー光照射を行う量子部パッケージで構成される。

 CPTを利用した原子時計では、セシウム133原子に2つの周波数のレーザー光を照射する。この2つのレーザー光の周波数差がセシウム133原子に固有の共鳴周波数(9,192,631,770Hz)に一致したときに、検出される光強度が最大となる。これを利用して電圧制御水晶発振器を校正し、原子時計の基準となる非常に安定した周波数を作りだしている。

 周波数シンセサイザは、レーザー光の周波数差を0.3mHz以下の非常に細かい周波数ステップで変えるために用いられ、従来、原子時計の構成要素において50mW以上の大きな電力を占める構成部位だった。開発した原子時計は、周波数シンセサイザをCMOS集積回路で作りこむことで、消費電力を25分の1以下まで削減することに成功、2mWの消費電力を達成した。

 さらに、新たな量子部パッケージの構造を採用し、ヒーターによる温度制御の際に、外部の温度が伝わりにくくなるような隔離機構を設けるとともに、パッケージ内部を金でコーティングした。温度制御の効率を向上させることで、電力を消費しがちなヒーターの消費電力を9mWまで削減した。高安定レーザードライバ回路および高精度温度制御回路により長期間での周波数安定性も改善した。

 従来の周波数標準器では、消費電力と周波数安定度はトレードオフの関係にあったが、開発した原子時計(ULPAC)は、良好な周波数安定度と低い消費電力を両立しており、サイズも15cm³と非常に小型。今回、105秒(約1日)の平均化時間で2.2×10-12の長期周波数安定度を達成し、一般的な水晶発振器を搭載した時計と比べ、約10万倍も正確な時計を実現した。

 今後の展開

 開発した原子時計は、非常に小型で消費電力も小さいため、自動車、スマートフォン、小型衛星等、様々な機器への組み込みが可能。従来は搭載できなかった様々な機器で高精度な原子時計が搭載可能となり、自動運転やGPSの代替、高精度計測など、政府が進めるIoTが支えるソサエティ5.0(超スマート社会)の実現 に貢献すると期待できる。この開発品は、5年後を目途に販売開始を目指す。




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2019-2-7

NEC
カメラから顔や体の一部が見えない人物でも外観画像から
高精度に照合する「人物照合技術」を開発
 
 NEC は、カメラから顔や体の一部が見えない部分がある人物や後ろ向き・横向きの人物でも、全身の外観画像を用いて照合できる「人物照合技術」を開発した。

 「人物照合技術」は、カメラに写った人物の服装や体型などの外観を分析することにより、それらが同一人物か異なる人物かを判定する。NECがこれまで顔認証技術などにより培ってきた映像解析技術と深層学習技術を用いることで、顔画像のみに頼らない高精度な技術が確立できたという。

 従来カメラ映像から人物を照合する場合、顔認証技術だけでは横向き・後ろ向きなどの顔の見えない人物に対応できない場合があり、顔認証技術による人物の判定後に、その人物の外観を複数のカメラ間で照合することが、解決手段の1つとして考えられてきた。しかし、施設内のように多数の人々や椅子、カウンターなどの遮へい物がある場合、把握したい人物の一部がカメラから見えない場合があり、照合が困難だった。
 今回開発した「人物照合技術」により、人や遮へい物が多く、人物の顔や体の一部が見えないような場所でも広範囲での人物把握が可能となる。

 同技術の応用例として、人や遮へい物が多い大規模施設内の警備支援や、顔認証技術との組み合わせによる迷子等の人物の捜索などのサービスが想定されている。

 NECは、顔認証・指紋認証など世界トップクラスのバイオメトリクス認証技術(注1)を有しており、本技術も「NEC Safer Cities」(注2)の各ソリューション、世界No.1(注3)の認証精度を誇る顔認証AIエンジン「NeoFace」を採用した商品群やNEC 映像分析基盤などに2019年から順次展開していく考え。

 「人物照合技術」の特長
  1. カメラから見えない部分がある人物でも照合が可能
    深層学習技術にNEC独自の工夫を行い、人混みや物陰がある環境など人と人、人と物の重なり、人物映像にカメラから見えない部分がある場合でも、その他の部分を自動的に選択し、それに基づいて人物を照合する。人物照合率は約9割(注4)と高精度。

  2. 横向きや後ろ向きの人物でも識別が可能
    深層学習技術の効果的な利用により、複数のカメラで撮影された後ろ向きや横向きなどの様々な角度の人物を識別する。これによって、顔が見えない場面でカメラ映像のみを用いた人物の照合を実現。


(注1) 「Bio-IDiom(バイオイディオム)」は、顔、虹彩、指紋、掌紋、指静脈、声、耳音響など、NECの生体認証の総称です。世界トップクラスの技術や豊富な実績を活かし、ニーズに合わせて生体認証を使い分け、あるいは組み合わせることで、「誰もが安心してデジタルを活用できる世界」を実現していく。
https://jpn.nec.com/solution/biometrics/index.html
(注2)NEC Safer Cities:生体認証や映像解析を含むAI、IoT関連の先端技術を活用して、安全・安心で効率・公平な都市の実現を支えるNECの事業領域。人々がより自由に、個人の能力を最大限に発揮して豊かな生活を送ることのできる社会の実現に貢献。
https://jpn.nec.com/safercities/index.html
(注3)NEC、米国国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術ベンチマークテストで4回連続の第1位評価を獲得
(注4)公開データベースに基づく自社評価




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2019-1-30

世界初、インクジェット技術による二次電池の新たな製造技術を開発
IoTデバイスやウェアラブルデバイス向けに、自由な形状での電池製造が可能に
リコー

 リコーは、世界で初めて*、インクジェット技術を用いてリチウムイオン二次電池を自由な形状で製造する技術を開発した。
 リチウムイオン二次電池を構成する主要な部材である電極(正極と負極)やセパレーターの材料をそれぞれインク化し、インクジェット技術を用いて狙った場所に重ねてデジタル印刷することで、形状の自由な二次電池の製造が可能となる。これにより、デザインや性能の多様化が予想されるIoT(Internet of Things)デバイスやウェアラブルデバイス向けの電池製造に柔軟に対応できるようになる。

 あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代やウェアラブル時代の実現には、それぞれのデバイスの使われ方や形に応じた二次電池が不可欠。従来の二次電池は規格品のため、電池の大きさや形状、性能にデバイスのデザインや性能が制限されていた。 本技術は、狙った場所に狙った形で電池材料を印刷することを可能にし、二次電池のデジタル印刷製造を大きく前進させた。将来的には、デバイス上に二次電池を直接印刷する実装技術の実現を目指す。

 2019年度から、電池メーカーに向けて本技術を用いて製造した電池部材の提供や、本技術によるデジタル製造の提案を開始する。

 なお、リコーは、今回開発したインクジェット技術によるリチウムイオン二次電池のデジタル印刷製造技術を、1月30日から2月1日まで東京都の東京ビッグサイトで開催される、「nano tech 2019 第18回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」に出展する。

 *2019年1月リコー調べ :正極・負極・セパレーター3層をインクジェット法により形成した二次電池として

IoTデバイスやウェアラブルデバイスに実装した活用イメージ 

 技術紹介

 従来の電池電極は、セラミックス等の電極材料を混ぜ込んだ高粘度のペーストをスリットから押し出して塗布した後、必要な大きさや長さにそれらを切り出した加工を行うことで製造されている。多様な形状や性能の二次電池を製造するためには、形状や性能に応じた複数の製造ラインを持つか、時間がかかる製造プロセスの組み換え生産が必要だった。また、電極を切り出す際に、電極以外の部分に塗布された電極材料は廃棄されていたため、多くの無駄が生じていた。

 リコーでは、長年プリンティング領域で培ってきた材料技術とインクジェット技術を生かしたセラミックスの微粒化および独自分散技術により、インクジェットヘッドから吐出できる低粘度かつ高濃度な電極材料インクの製造を実現した。リチウムイオン二次電池に用いられているほとんどの種類の電極材料のインク化に成功している。また、電池内で電極の短絡を防ぐ部材であるセパレーターをインクジェットで形成できる技術も同時に開発した。これらの電池部材をデジタルデータに従ってインクジェットヘッドから吐出することで、さまざまな形状の電池を製造することができるので、プロセスが簡易になり、多品種生産のため複数製造ラインを持つ必要も無くなる。また、必要な部分だけに電極材料を印刷するために、電極材料の無駄もなくなる。




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2019-1-8

視覚障がい者向けに音声ガイダンス対応の
コンビニ交付用行政証明書交付端末を開発
 リコー

音声ガイダンス対応コンビニ交付用行政証明書交付端末
 
~全国で初めて豊島区役所(東京都)が採用し、区内施設でサービス開始~

 リコーは、視覚障がい者向けに音声ガイダンスに対応したコンビニ交付用行政証明書交付端末を開発した。このほど、豊島区役所(東京都)が区民サービス向上の一環として全国で初めて採用し、2019年1月4日から豊島区役所本庁舎、東部区民事務所および西部区民事務所で各種行政証明書の発行サービスを開始している。

 このほど豊島区役所が採用したのは、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が提供するコンビニ交付サービスに対応した自治体向けの行政証明書交付端末で、全国で初めて音声ガイダンス機能を搭載したもの。視覚に障がいのある方が利用する際は、備え付けのハンドセットから流れる音声ガイダンスに従いながらテンキーボタンで指定することで「行政サービスメニュー選択」「証明書選択」「マイナンバーカードのセット」「入金・証明書発行」といった操作が行えるため、視覚に障がいがある方が自分で住民票の写しや印鑑登録証明書などの証明書を発行することができる。また、操作用の15インチ大型フルカラータッチパネルは角度を動かせるため、車椅子の方が座ったままで利用できる。

 ※ 豊島区役所に設置した端末は豊島区の行政証明書の発行のみに対応しており、広域交付には対応していない。

 コンビニ交付は地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が提供するサービスで、マイナンバーカード(又は住民基本台帳カード)を利用して自治体の各種証明書をコンビニエンスストアなどに設置されたキオスク端末(マルチコピー機)から取得できる。コンビニ交付に参加する自治体(2018年12月26日現在で557市区町村)に居住している住民で、マイナンバーカードを持っている人であれば、いつでも、どこでも、すぐに受け取りが可能。また、広域交付に対応した自治体のコンビニ交付用行政証明書交付端末であれば、居住している市区町村と異なっていても発行できる。

 リコーでは、2014年4月に発売したマルチコピー機でコンビニ交付に対応し、2017年7月には自治体向けの専用機となる行政証明書交付端末を発売した。複合機モデルとプリンターモデルを用意しており、設置いただく環境に応じて選ぶことが可能。また、自動課金装置が搭載された情報端末が一体となったコンパクト設計で、限られたスペースにも設置することができる。

 リコーは今後も、全国の自治体に音声ガイダンス対応のコンビニ交付用行政証明書交付端末を提案し、視覚に障がいがある人が身近な場所で簡単に証明書の交付を受けられる環境づくりを支援していく考え。


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